「趣味は読書です」と言う人にはあまり会ったことがないが、
そう言われたら多分「あ、知的な人なんだ」「物静かな人なのかな?」と思ってしまうだろう。
そういうイメージ。
「最近はよく雑誌や本を読んでます」と言われれば「へ〜どんな本?」と気楽に返せるが、
ズバリ「読書」と言われるとその奥深さにおののいてしまう。
うかつに会話を続ければ自分の知識の浅さが露呈してしまうから。
「こないだ村上春樹の新作をやっと読破しました」
「あなたもハルキスト? 僕も読みました。 あの作品は〜」 なんて会話、俺は一生することがないと思う。
とにかく読書はなにか、ふざけようがなく、茶化しにくく、『賢そう』なので、
ケチのつけようがない、ゆえにとっつきにくい鉄壁の趣味なのだ。
そこには憧れがある。
大体、先に書いた会話相手は全て女性を想定している。
まじめで成績優秀、いつも図書館で本を読んだり、勉強しているような委員長(もちろん女の子。しかもかわいい)
話しかけたいけどきっかけがない…。
儚いあこがれ…初恋…。
“読書”という言葉が持つ繊細さ、限りなく透明に近いブルーさ、純粋さ、そして『触れてはならぬ感』はこのイメージを内包しているからなのだ!
まあ、全てベタな妄想だけど。
こないだ、読みたかった本が手に入らないのでネットで古本を買った。
本の価格はナント1円!、送料が257円で合計258円。
これで一体誰が儲かるのだ?
本当に不思議だが、他人の商売を心配するのもバカらしいので考えるのはやめた。
古本はあまり好きじゃない。
活字本は長い時間を共にするため、時にソファーで、時にベッドで読む。
そういう時身に覚えのない、ページに挟まったおかしのクズ、何かよくわからない「毛」などがはらはらと落ちてきたら、微妙な気持ちになる。
古本は前の持ち主の影に怯えなければならない。
しかしこれが電子書籍にはない、物体としての本の強みでもある。
紙の質感。手触り、インクと紙の匂い。古本であれば前の持ち主の痕跡など、
そういう人間味、ドラマがあるじゃあないか。
そういえば『匂い』
古本は明らかに新品とは違う、古本屋独特の香りがする。
あの匂いは何の匂いだろう? 紙が年月を重ねて?
防虫剤?
届いたばかりの古本を手に取り、匂いを嗅いでみる。
『できれば新品みたいな匂いがしないかな?』
想像していたのとはまったく違う匂いがした。
女性の香水のような、化粧品のような匂い…
ありていに言えば、1人暮らしをしている女性の部屋の匂い。
あまりに想像とかけ離れていて動揺した。
でもちょっと得した気になった。
俺は知的とは程遠い人間だと思った。